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zoom RSS 居酒屋探訪記〜肩書は置いて来て

<<   作成日時 : 2017/04/25 21:49   >>

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あれはまだ先代のママさんがいた頃だから少し前の話になる。私は行きつけの居酒屋で飲んでいた。ママさんと娘さんでやっている庶民的なお店だ。お客は私の他には同年代のカジュアル着の男性、ちょっとヤンチャな格好の若者、あとはサラリーマン風30代の男性。それなりに皆、酒とつまみを楽しんでいた。若者は見た目とは裏腹にお店の人にはちゃんと敬語を使っている。いいヤツだ。
と、そこに初老の男性客が入って来た。思えば最初からちょっとひとくせある感じのオヤジだった。オヤジはじゃこおろしを注文した。それを口にすると顔をしかめている。それに気づいたママさんが「お酢をかけた方がよかったかしら?」と声をかけた。オヤジは「いや、いい」と答え、結局そのあと箸をつけなかった。ママさんが気を使って色々と話しかけると徐々にしゃべりだした。
なんでも東京の大学を卒業して(大学名は忘れた)某有名企業を定年で退職したらしい。ママさんと同い年のようだ。
「すごいわねぇ〜あたし達の時代は大学へ行く人少なかったもんね」
普通はこう言われたら謙遜してもよさそうなものだがオヤジは調子にのり自慢話を始める。結構出世したそうだ。やがては近くにいた若者にも説教じみたことまで言い始める。若者は愛想笑いで適当に聞き流していたが周りの人間が聞いてもあまり面白い内容ではない。いつの間にか店内は少し静かになっていた。
そしてオヤジは一通りしゃべって満足したのか勘定を済ませ店の外へ出た。ピシャリと扉が閉まる。

…と、同時にその場にいた全員が一斉に声を上げた。
「何なんだ、アイツはよぉ〜!」「自分は何様のつもりだぁ〜」「私はああいうタイプが一番嫌いです」「昔は知らんけど今はただのジジイだろうが!」「隣で聞いててイライラしましたよ」「誰もお前の自慢話なんか聞きたくねえっつ−の」「ホントホント」…もう各自言いたい放題である。
みんなよほどオヤジのトークにうんざりしていたのだろう。そのあとはもうオヤジの悪口ざんまいである。

ひとしきりオヤジの悪口で盛り上がると今度はその場のお客同志で和気あいあいとした雰囲気になってきた。カラオケも歌ってもうおおにぎわいである。なぜかみんな初めて会ったばかりなのにものすごい一体感である。最後は全員お互い握手をして店を出た。今思うと楽しい一夜の出来事だった。

よく一流企業で管理職を務めた人間が仕事を辞めると肩書を失った喪失感が大きいと言う。家庭で会社と同じように高圧的に奥さんに接すると嫌悪感を持たれ、離婚するケースもあるようだ。このオヤジはまさにその典型的な人物だろう。

ドラマ「深夜食堂」でマスターがトラブルを起こしたお客に「今度ウチの暖簾をくぐるときは面倒な肩書は置いて来な」とかいう場面がある。まさにその通りだ。酒場は世の憂さを酒とともに束の間ではあるが忘れられる場所である。誰も自慢話などは聞きたくない。当たり障りのない世間話でダラダラ飲めればいい。「北さん」やら「ノブちゃん」やらの適当な愛称で呼び合い深いところまでは干渉はしない。それが酒場の仁義だ。

あのオヤジもそれ以来見かけないが今頃はどうしているのだろう。いい酒場でいい仲間といい酒を飲んでいることを願ってやまない…

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